掲載記事

HOME > 掲載記事 > 建通新聞掲載 2008年「経審改正」の衝撃 > 第11回-12月20日付-

建通新聞掲載 2008年「経審改正」の衝撃 第11回-12月20日付-

Y評点に新設 「絶対的力量」は、中堅の企業規模評価

今回は、2008年経審改正でY評点に新設される「絶対値指標」について考察してみましょう。現行経審のY評点には、「小規模・零細企業の分布が広がりやすく、経営実態と比べて過大な評価がされる傾向がある」という指摘があります。この指摘に応えるため、改正経審では、営業キャッシュフロー(2期平均)と利益剰余金という、絶対値指標を2つ導入します。前回ご説明した、収益性・効率性の総資本売上総利益率も、2期平均の総資本を分母とし、その値が 3,000万円以下の場合は、3,000万円と読み替えて計算します。これも、「過小資本のペーパーカンパニーが過大評価を受けないようにするため」とされています。
新たに採用された営業キャッシュフロー絶対額を、2期平均とする理由は次の通りです。前年度と比較して年度末に大型工事が集中すると、工事が完成すれば完成工事未収入金が前年度末より増加し、工事が完成しなくても未成工事支出金が前年度末より増加するので、どちらの場合も営業キャッシュフロー額は減少します。いわゆる資金繰りが厳しい状況になります。中小規模・零細企業の場合は特に、営業キャッシュフロー額が年度ごとに変動することが多くなるのです。
このほか営業キャッシュフロー(2期平均)は会計上の利益ではなく、実際に手元に残る資金ですから、企業間での差が出にくい指標です。またマイナス 10億円からプラス15億円の範囲が評価対象なので、小規模・零細企業では高得点を得にくく、中小・中堅企業の収益力を端的に表す絶対値指標になると思われます。
次に利益剰余金について見てみましょう。中小企業の場合、利益剰余金と自己資本との差は、ほぼ資本金・資本剰余金なので、グラフ1からも分かるように、利益剰余金と自己資本額は、同じ傾向の評価になるでしょう。また、営業キャッシュフロー(2期平均)と同様、小規模・零細企業では高得点を得にくく、中小・中堅企業の財務力を端的に示す絶対値指標といえます。

グラフ1
グラフ1

以上のように、08年改正経審で導入された絶対的力量指標によって、改正Y評点は現行経審と異なる評点分布になりそうです。小規模・零細企業では高得点が得られず、中小・中堅企業では得点幅が狭くなります。また大企業では、再び評点分布が拡大して、経審全体でも差がつく評点になります(グラフ2)。「企業規模が違っても、1制度で妥当な評価をしよう」とする改正意図が実現されたといえるでしょう。

グラフ2
グラフ2

建通新聞 の記事を見る