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新時代の建設業経営 第2回 -数字が示す建設産業の厳しい経営実態-

2007年度予算の財務省原案が発表された。穏やかな景気回復を背景に、過去最大の税収増加を見込む一方、歳出を抑制、プライマリバランスの黒字化目標である2011年の前倒しを狙うという。一般歳出は、拡大する社会保障費(+2.7%)に対して、公共事業費は対06年度比△3.5%の6兆9,472億円で6年連続の削減となり、20年ぶりに7兆円を割り込む。同時に発表された財政投融資案も対前年度比△5.6%の14兆1,622億円、こちらも29年ぶりに15兆円割れとなる。建設投資の減少が長引く一方で、建設業者は供給過剰で建設産業は過当競争である、と言われて久しい。実際、地元発注者からの発注量が激減し、地方の建設産業は壊滅状態に近いといわれる。その一方、東京の都心部にはタワークレーンが林立する。名古屋・大阪も再開発地域をコアに地価が急上昇、その勢いは福岡・札幌にも飛び火しそうな気配だという。そして建築現場からは「手が足りない」という声も聞こえてくる。いったい、建設産業の経営実態はどうなっているのだろうか。本連載の第2回は、全国各地の建設産業の経営実態について解明してみたい。

情報収集の方法

経営事項審査結果の公表が始まってから、8年になる。公共工事に係る競争参加希望者の選定手続の透明性の一層の向上による公正さの確保、企業情報の開示や相互監視による虚偽申請の抑制力の活用、といった観点から経審結果の公表を行うことになった。筆者は、建設産業の市場分析、建設業者の経営指導や信用調査など、業務上の必要性から、インターネット上で経審結果の公開が始まった99年からデータ収集を行ってきた。この8年間に累計で24万社、140万件超の経審データベースを構築して、これを毎週更新している。ご案内のとおり、すべての業者が経審を申請しているわけではないが、各地域の主要な建設業者は網羅されており、建設産業の全国的な趨勢や企業別の経営状況を数値で把握できる唯一の情報源といっていいだろう。今回は、この主要建設業者データベースから、都道府県別、建築・土木別、売上高・営業利益の推移を抽出して、その経営実態を数値で分析してみよう。

経営実態の分析条件の設定

98年の金融危機を乗り越えるため、99年は中小企業金融の特別保証枠20兆円が設定されるなど、各種の経済対策が実施された。その結果、2000 年は、3%近いGDP成長率を達成したが、その一方で民事再生法が施行され建設産業の倒産数も再増加に転ずるなど、本格的な競争淘汰の時代に突入した元年といえる。この00年を含む事業年度の決算期と最新の05年度決算期のデータを比較して、主要な建設業者の経営状況を分析してみよう。データを抽出する条件を次の通り設定した。主要工種が建築一式工事である企業27,084社、主要工事が土木一式工事である企業59,358社を抽出して、都道府県別に売上高増減率※1と売上高営業利益率※2を表1のとおり算出した。また、47都道府県の収益傾向を分析するため、00年度と05年度の売上高と営業利益の趨勢を、増収増益・増収減益・減収増益・減収減益に分類して、それぞれ企業数の構成比を算出した。

表1
工事種類 土木 建築
売上高
増減率
営 業
利益率
売上高
増減率
営 業
利益率
北海道 -27.9 0.97 -12.0 0.77
青森県 -29.5 1.02 -19.7 0.76
岩手県 -36.6 -1.20 -28.0 1.73
宮城県 -27.3 -0.53 -0.8 1.41
秋田県 -25.8 0.13 -15.2 0.79
山形県 -34.9 0.68 -17.8 0.47
福島県 -31.1 -0.43 -5.6 1.40
茨城県 -22.7 0.21 -11.6 1.11
栃木県 -26.9 -0.77 -4.8 0.93
群馬県 -29.6 0.33 -4.4 1.34
埼玉県 -17.4 0.82 -4.0 1.36
千葉県 -18.7 1.20 2.7 2.59
東京都 -22.9 2.10 -9.2 3.42
神奈川県 -22.2 0.32 -6.1 2.37
新潟県 -24.5 2.12 -14.2 2.05
富山県 -30.0 0.49 -17.0 1.26
石川県 -25.4 1.49 -14.8 1.61
福井県 -23.4 1.21 -7.8 1.51
山梨県 -22.0 -1.28 -9.1 2.34
長野県 -46.3 -1.90 -27.0 0.94
岐阜県 -39.4 0.74 -6.0 1.61
静岡県 -23.2 -0.74 -8.3 2.06
愛知県 -14.0 0.99 1.2 1.79
三重県 -19.8 1.18 -12.2 1.20
滋賀県 -19.6 2.00 -16.7 1.83
京都府 -21.6 1.47 -14.2 1.21
大阪府 -34.1 1.68 -6.5 3.07
兵庫県 -21.2 2.10 -18.4 1.45
奈良県 -18.0 2.86 -16.3 1.26
和歌山県 -21.3 1.69 -5.7 1.37
鳥取県 -28.5 0.61 -18.7 0.27
島根県 -30.5 0.33 -15.1 1.42
岡山県 -22.4 1.22 -16.0 1.59
広島県 -25.1 0.93 -13.4 1.78
山口県 -26.0 0.71 -8.2 1.62
徳島県 -23.1 -0.10 -21.3 0.44
香川県 -25.8 0.94 4.7 1.48
愛媛県 -28.5 -1.33 2.0 1.20
高知県 -36.8 0.04 -23.5 0.58
福岡県 -21.5 1.75 -6.6 1.63
佐賀県 -24.2 0.35 -19.8 0.77
長崎県 -27.9 0.18 -7.4 1.28
熊本県 -23.3 1.19 -4.6 1.34
大分県 -26.1 1.48 -17.1 1.88
宮崎県 -22.9 2.39 -0.9 1.71
鹿児島県 -28.7 1.26 -10.8 1.36
沖縄県 -10.7 0.47 -1.3 1.57
単位 : %
※1 (05年度売上高 - 00年度売上高) / 00年度売上高
※2 05年度営業利益 / 05年度売上高

都道府県別に見た売上高の趨勢・営業利益の現状

土木一式工事では、47都道府県のすべてが10%以上の売上高減少となった。長野・岐阜・高知・岩手・山形・大阪・福島・島根・富山の9県が3割以上の売上減少、特に長野県は46.3%減少ときわめて厳しい状況である。また現状の営業利益率は、長野・愛媛・山梨・岩手・栃木・静岡・宮城・福島・徳島の9県がマイナスに転落している。東北・中部・四国地方で営業利益の減少傾向が顕著で、厳しい経営状況であることがうかがえる。建築一式工事では、24都道府県が10%以上の売上減少となった。岩手・長野・高知・徳島の4県が2割以上の売上減少、その一方で香川・千葉・愛媛・愛知の4県は売上を拡大した。また現状の営業利益は、47都道府県のすべてが黒字であり、特に東京・大阪など都市部では、3%前後と堅調な利益を確保している。一方、東北・四国地方で営業利益の減少が厳しい(表1)。

収益傾向(増収増益・増収減益・減収増益・減収減益)の分析

公共土木は、工事量減少に伴う受注競争の激化、それに伴う利益率の低下が全国的に顕著である。しかし、このような厳しい経営環境下であっても、すべての企業が業績を悪化させているわけではない。ある地域における企業の経営状況を具体的に分析するための例として、静岡県の土木一式工事の企業の収益傾向を散布図(図1)で示した(売上高の増減を横軸、営業利益の増減を縦軸として、1企業を一つの点で示した)。確かに全体の傾向としては減収減益の企業が多数を占めているが、受注競争の激化に対しても売上を拡大して対処する企業、売上は減少しても利益は増加している企業、減収が減益に直結してしまった企業など、経営能力と経営努力の差によって、さまざまな結果となっている。収益傾向の分布状態や構成比の比較結果(図2)は、地域ごとの企業経営の厳しさを相対的に示す指標として有効であろう。都道府県別に減収減益企業の構成比を求めた(図3、図4)。

図1 収益傾向の分布例
(静岡県の土木一式工事の場合)
図1 収益傾向の分布例(静岡県の土木一式工事の場合)

図2 収益傾向別の企業数構成
(静岡県の土木一式工事の場合)
図2 収益傾向別の企業数構成(静岡県の土木一式工事の場合)

図3 土木減収益(2001~2006)
図3 土木減収益(2001~2006)

図4 建築減収益(2001~2006)
図4 建築減収益(2001~2006)

都道府県別に見た企業経営の厳しさ

土木一式工事(図3)では、北海道・青森・岩手・秋田・山形・長野・奈良・鳥取・島根・高知県は過半数の企業が減収減益であり、非常に厳しい経営状況である。公共工事への依存度が高い地域が多く、地域への影響が心配される。一方で増益が過半数を占める地域は、香川・福井・東京・大分・千葉である。建築一式工事(図4)では、北海道・青森・岩手・山形・長野・山梨・鳥取・島根・徳島・高知などの経営状況が厳しい。一方で山口・千葉・兵庫・愛知・東京・静岡・宮城・神奈川・広島・福島・岡山・埼玉など、人口が集約した都市部を抱える地域では、過半数の企業が増益となっている。全国的に建築の方が増益傾向が強く(43都道府県)、土木の落ち込みを建築がカバーする構図となっている。土木・建築全体として過半数が増益となった地域は6都県であり、建築が優勢なのが東京・千葉・山口、土木が優勢なのが香川・福井・大分である。

まとめ

建設産業の経営状況は、所在地の地域特性に大きく影響を受けていることがわかる。都市部を含む地域では総じて建築の増益傾向が強く、土木の落ち込みをカバーできている。また公共土木への依存度が高い地域では、全般的に減収減益の傾向が強く表れる。土木で増益傾向がみられるのは、災害復旧や大型土木工事がある地域だろう。企業規模別の収益傾向をみると、売上規模が30億円以下の企業に増収傾向が強く、30億円超の企業では減収減益となる傾向が強い。売上規模が大きい企業では、売上の減少ペースに固定費削減が間に合っていないことが考えられる。一方で売上規模が小さい企業では、外注を活用することで、固定費を増やすことなく増収増益を実現しているものと考えられる。収益傾向別の財務状況など、本号で述べきれない内容は、改めて述べてみたいと思う。本稿のバックデータと分析事例などをこちらをご覧下さい。