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新時代の建設業経営 第3回 -数字が示す建設産業の厳しい経営実態-

集計した中小建設業者の条件

前号に引き続き、経審の公開データから元請企業を分析対象として抽出、土木一式工事と建築一式工事の2工種を抽出した。

  • 建設業許可区分:一般建設業及び特定建設業許可を受けた法人
  • 年間完成工事高:5億円以上20億円未満
  • 完成工事高比率:80%以上
  • 建設工事の種類:土木一式工事及び建築一式工事を主体とする

また企業の業績推移パターンとして、

  • 売上高、営業利益ともに増加した「増収増益」
  • 売上高が増加しても、営業利益が減少した「増収減益」
  • 売上高は減少するが、営業利益が増加した「減収増益」
  • 売上高、営業利益ともに減少した「減収減益」

の四つに区分して、全体を8パターンに集計してその違いを分析した。

集計結果

  総数 増収増益 増収減益 減収増益 減収減益
土木一式
工事
5,002 701
(14.0%)
667
(13.3%)
739
(14.8%)
2,895
(57.9%)
建築一式
工事
3,390 911
(26.9%)
657
(36.7%)
577
(19.4%)
1,245
(17.0%)

(単位:千円)

以上の集計結果から、土木一式工事は減収傾向が強く(72.7%)、減収減益が最も多くなっており(57.9%)、ここでも公共工事の受注競争の厳しさが読み取れる。

建築一式工事の場合は、減収減益状態の企業が最も多いものの(36.7%)、一方では半数近くの企業が増収傾向(46.2%)となっている。建築工事の場合、民間工事が多くを占めるので、自社の営業方法や技術力など、強みや特徴を生かせる工事を受注することによって利益を確保しているものと思われる。企業が事業計画を検討したり、自社の事業領域の再検討を行う際には、その企業の業績推移のパターンを確認する必要がありそうだ。

業績推移パターン別の分析

平成13年と平成17年の損益計算書に表示された、売上高と営業利益を比較して、売上高が増加している場合は増収、減少している場合は減収。営業利益が増加している場合は増益、減少している場合は減益とした。これらの業績推移パターンから、厳しい経営状況にあっても、しっかりと利益を拡大して、増収増益や減収増益としている優良企業は、どのような経営を行っているのだろうか。パターン別に分類した企業の経営状況を、少し詳しく分析してみるために、損益分岐点比率を求めてみた。売上原価の中でも外注費や材料費など、社外から調達する費用は全額が変動費であると考え、労務費や経費、販売費及び一般管理費はその8割が固定費であると仮定して固変分解を行った。8パターンごとにその結果を図のとおり示す。 売上の減少には耐えられるが、利益の減少は経営に大きな影響を与えることがよく分かる。

工事の種類別売上高及び営業利益推移一覧
工種 推移
パターン
科目 平成
13年
平成
14年
平成
15年
平成
16年
平成
17年
土木一式
工事
増収増益 売上高合計
営業利益
672,103
15,590
699,447
17,791
703,965
18,725
763,951
22,330
879,796
30,737
増収減益 売上高合計
営業利益
747,980
18,981
760,631
20,850
771,315
14,849
772,413
14,334
863,133
6,177
減収増益 売上高合計
営業利益
1,204,002
18,699
1,065,462
19,548
996,898
19,996
909,724
21,330
898,985
34,192
減収減益 売上高合計
営業利益
1,407,334
40,773
1,274,022
36,280
1,135,064
24,775
1,045,839
21,965
934,555
4,271
建築一式
工事
増収増益 売上高合計
営業利益
761,763
11,266
779,302
12,257
787,837
12,947
837,835
17,499
971,991
27,675
増収減益 売上高合計
営業利益
834,860
14,411
829,686
13,094
833,051
12,542
892,572
12,257
978,078
2,715
減収増益 売上高合計
営業利益
1,153,180
9,060
1,085,731
10,185
1,009,937
9,048
983,040
13,544
959,153
23,748
減収減益 売上高合計
営業利益
1,341,504
22,860
1,210,230
19,164
1,129,245
15,853
1,100,625
13,784
978,690
3,149

(単位:千円)

(出典:建設産業企業実務研究会刊「収益を改善させた建設企業の取組事例」)

■土木一式工事:5,002社
◎ 増収増益:701社(14.0%)

土木・増収増益・グラフ

勘定科目 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年
売上高合計 672,103
100.0%
699,447
100.0%
703,965
100.0%
763,951
100.0%
879,796
100.0%
変動費 474,724
70.6%
493,602
70.6%
496,438
70.5%
547,193
71.6%
636,849
72.4%
固定費 181,789
27.0%
188,054
26.9%
188,802
26.8%
194,429
25.5%
212,210
24.1%
営業利益 15,590
2.3%
17,791
2.5%
18,725
2.7%
22,330
2.9%
30,737
3.5%

(単位:千円)

増収増益となった企業は比較的少なく(17.1%)、売上高の平均は672百万円~879百万円と、規模が小さい企業が中心となっている。また、変動比率は若干増加したものの、固定費率を低下さることで、利益を拡大している。
(損益分岐点比率87.4%)

◎ 増収減益:667社(13.3%)

土木・増収減益・グラフ

勘定科目 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年
売上高合計 747,980
100.0%
760,631
100.0%
771,315
100.0%
772,413
100.0%
863,133
100.0%
変動費 521,147
69.7%
527,170
69.3%
540,330
70.1%
546,802
70.8%
630,878
73.1%
固定費 207,852
27.8%
212,610
28.0%
216,136
28.0%
211,277
27.4%
226,078
26.2%
営業利益 18,981
2.5%
20,850
2.7%
14,849
1.9%
14,334
1.9%
6,177
0.7%

(単位:千円)

増収減益となった企業数は比較的少なく(11.9%)、売上高の平均は747百万円~863百万円と、比較的規模が小さい企業が中心となっている。売上を拡大するために外注費など変動費を大幅に増加したため、営業利益は減少した。
(損益分岐点比率97.3%)

◎ 減収増益:739社(14.8%)

土木・減収増益・グラフ

勘定科目 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年
売上高合計 1,204,002
100.0%
1,065,462
100.0%
966,898
100.0%
909,724
100.0%
898,985
100.0%
変動費 880,121
73.1%
764,254
71.7 %
686,389
71.0%
641,527
70.5%
631,537
70.3%
固定費 305,182
25.3%
281,660
26.4%
260,513
26.9%
246,867
27.1%
233,256
25.9%
営業利益 18,699
1.6%
19,548
1.8%
19,996
2.1%
21,330
2.3%
34,192
3.8%

(単位:千円)

減収増益となった企業は比較的少なく(27.2%)、売上高の平均は1,204百万円~898百万円と、比較的規模が大きい企業が中心となっている。また、売上が減少しているが、固定費を大幅に削して営業利益を増加させている。
(損益分岐点比率87.4%)

◎ 減収減益:2,895社(57.9%)

土木・減収減益・グラフ

勘定科目 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年
売上高合計 1,407,334
100.0%
1,274,022
100.0%
1,135,064
100.0%
1,045,839
100.0%
934,555
100.0%
変動費 1,000,516
71.1%
892,807
70.1 %
792,931
69.9%
728,969
69.7%
660,594
70.7%
固定費 366,045
26.0%
344,935
27.1%
317,357
28.0%
294,905
28.2%
269,690
28.9%
営業利益 40,773
2.9%
36,280
2.8%
24,775
2.2%
21,965
2.1%
4,271
0.5%

(単位:千円)

減収減益となった企業は多く(43.9%)、売上高の平均は1、407万円~934百万円と、規模が大きい企業が中心となっている。変動費には大きな変化がなく、一方で固定費の削減ができていないため、営業利益は減少した。
(損益分岐点比率98.5%)

◆ 建築一式工事:3,390社
◎ 増収増益:911社(26.9%)

建築・増収増益・グラフ

勘定科目 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年
売上高合計 761,763
100.0%
779,302
100.0%
787,837
100.0%
837,835
100.0%
971,991
100.0%
変動費 616,789
81.0%
633,844
81.3 %
641,645
81.4%
687,399
82.0%
802,835
82.6%
固定費 133,707
17.6%
133,201
17.1%
133,244
16.9%
132,937
15.9%
141,481
14.6%
営業利益 11,266
1.5%
12,257
1.6%
12,947
1.6%
17,499
2.1%
27,675
2.8%

(単位:千円)

増収増益となった企業は比較的多く(25.8%)、売上高の平均は761百万円~971百万円と、規模が小さい企業が中心となっている。売上を増やすため、外注費など変動費は若干多くなったものの、固定費を低下させて営業利益を増加している。
(損益分岐点比率83.7%)

◎ 増収減益:657社(19.4%)

建築・増収減益・グラフ

勘定科目 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年
売上高合計 834,860
100.0%
829,686
100.0%
833,051
100.0%
892,571
100.0%
978,078
100.0%
変動費 672,108
80.5%
674,456
81.3 %
678,946
81.5%
734,940
82.3%
825,001
84.3%
固定費 148,341
17.8%
142,135
17.1%
141,564
17.0%
145,375
15.3%
150,363
15.4%
営業利益 14,411
1.7%
13,094
1.6%
12,542
1.5%
12,257
1.4%
2,715
0.3%

(単位:千円)

増収減益となった企業は少なく(11.1%)、売上高の平均は834百万円~978百万円と、比較的規模が小さい企業が中心となっている。また、固定費を若干削減したが、変動費率が大幅に上昇したため、営業利益が減少している。
(損益分岐点比率97.9%)

◎ 減収増益:577社(17.0%)

建築・減収増益・グラフ

勘定科目 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年
売上高合計 1,153,180
100.0%
1,085,731
100.0%
1,009,937
100.0%
983,040
100.0%
959,153
100.0%
変動費 945,315
82.0%
888,684
81.9 %
829,245
82.1%
803,481
81.7%
776,001
80.9%
固定費 198,805
17.2%
186,862
17.2%
171,644
17.0%
166,015
15.9%
159,405
16.6%
営業利益 9,060
0.8%
10,185
0.9%
9,048
0.9%
13,544
1.4%
23,748
2.5%

(単位:千円)

減収増益となった企業は比較的多く(26.1%)、売上高の平均が1,153百万円~959百万円と、比較的規模が大きい企業が中心となっている。また変動費、固定費を共に削減することで、営業利益を増加させている。
(損益分岐点比率87.0%)

◎ 減収減益:1,245社(36.7%)

建築・減収減益・グラフ

勘定科目 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年
売上高合計 1,341,504
100.0%
1,210,230
100.0%
1,129,245
100.0%
1,100,625
100.0%
978,690
100.0%
変動費 1,091,140
81.3%
982,172
81.2 %
917,797
81.3%
896,148
81.4%
802,412
82.0%
固定費 227,504
17.0%
208,894
17.3%
195,595
17.3%
190,692
17.3%
173,129
17.7%
営業利益 22,860
1.7%
19,164
1.6%
15,853
1.4%
13,784
1.3%
3,149
0.3%

(単位:千円)

減収減益となった企業数は多く(37.0%)、売上高が1,341百万円~978百万円と、規模が大きい企業が中心となっている。変動費率、固定比率が共に上昇しているため、営業利益は減少している。
(損益分岐点比率98.3%)

まとめ

分析を通して判明したことは、従来から売上規模が大きい企業は、受注競争の激化によって減収となる傾向が強い。その一方で、従来は売上規模が小さい企業は、固定費が少ないことを生かして、積極的に受注を拡大、外注先を活用するなどして売上を拡大しているようだ。また利益を確保している増益企業は、土木・建築を問わず固定費削減が効果を表している。リストラなど身を切る固定費削減に取り組んでいない企業は、いずれも利益を減らしていることがわかった。固定費の少ないことが受注力につながり、そして確実にそれが利益につながっていく。固定費が多い企業は受注力が低下する上に、利益をも減らしてしまうようだ。工事原価を中心とする変動費を削減しながら、経営者がリードして計画的に固定費削減を実行することが不可欠だ。