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HOME > 掲載記事> 2010年-1月5日付-

建通新聞掲載 地域の建設企業が生き残る経営を考えよう。-新春経営者塾-

地域の建設企業が生き残る経営を考えよう。

地域建設企業の未来は――。昨年の政権交代以降、新しい建設行政の方向性はなかなか見えてこない。確かなことは、2010年度の公共事業予算が、前年度と比べて大幅にマイナスすることだけのようだ。このようの中、地域の建設企業が生き残るポイントはどのようなところにあるのだとう。年の初めにちなみ、「経営者塾」と題し、全国25万社の財務データを分析する日本マルチメディア・エクイップメントの高田守康氏に、神奈川県若手経営者の会のメンバーと、建設業経営の方向性について話し合ってもらった。


考察 1 2008年の経審改正のポイントは?

―大企業は「利益と技術力」を評価、中小企業は「信頼と実績」を重視―

改正の目的の一つは、公共工事の企業評価における「物差し」の確立です。そしてもう一つは、生産性の向上や経営の効率化に向けた企業の努力を評価・後押しすることです。
新旧経審の総合評定値を比べると、08年末時点での完成工事高別P評点は、完成工事高が10億円以上の企業は上がり、逆に、10億円未満の企業は下がるという傾向がはっきりと出てきます。これが、今回の経審改正の特徴を端的に表しています。
具体的に言うと、一つは完成工事高、技術者数、利益・自己資本額など、企業規模による格差が拡大したということです。そしてもう一つは、X2評点やW評点で見られるように、同規模企業での順位の変動幅が広がったということです。
すなわち、自己資本額、利益絶対額、企業規模が大きく、営業年数が長い企業ほど、比較的高い点数を取ることができる指標になったということが言えます。

新経審のX2評点は、利益を絶対額で評価する指標になりました。利益は平均利益額(フロー)と自己資本額(ストック)の両面から評価します。
平均利益額は、営業利益に減価償却費を差し戻して算出します。企業の設備投資は利益とみなすという考え方です。同種同規模の工事であれば、機械をレンタルするのではなく、設備投資し償却した方が評価が上がるという仕組みです。
W評点の中で大きく変わったのが評点幅です。旧経審がゼロ点から30点までだったのに対して、新経審はマイナス60点からプラス45点までと大幅に拡大しました。
企業の社会的責任が問われる中、長年、地域貢献してきた企業が、やっと一定の評価を得られる指標のようになりました。労働条件や職場環境を整えているのが当たり前の企業を正しく評価しようという思想が根底にあり、地域建設企業にとっては歓迎です。
Y評点のうち特徴的なのは、総資本売上総利益率を評価した点です。売上総利益とは粗利のことであり、現場で利益を出す力、すなわち現場力で差をつけるという意思表示です。現場で前向きに設備投資をして、減価償却しながら粗利を確保する企業が評価されることになりました。
Y評点の中では純支払利息比率が効きます。これにはキャッシュフロー経営を指向しようという考え方が鮮明に出ています。営業キャッシュフローや利益剰余金を絶対額で取り入れたのも同じ狙いでしょう。


考察 2 キャッシュフロー経営の必要性

―売上高偏重からの脱却―

高度経済成長の時代は、売上高の拡大が利益につながり、その利益の中から新たな投資にまわす資金を確保していました。バブル崩壊後は、売上高の減少が利益の減少となり、設備投資にまわす資金も底を突くようになりました。保有資産の価値は下がり、金融機関の貸し渋りを招きました。
そんな中、企業価値を高める手法としてキャッシュフロー経営の重要性が問われ始めました。その理由の一つは「企業が生き残る」ためです。売上や利益が拡大した時代は、本業で損失を出しても土地や株式などの含み益を担保に融資を受けることができました。
しかし、売上や利益の拡大が難しくなった現在のような様相で、安易な借り入れに頼る経営は危険であり、キャッシュフローを見据えた経営の重要性が増しました。
もう一つは「企業経営を強化する」ためです。キャッシュフローは、企業価値や事業価値を計る尺度として、投資の意思決定をする判断指針として客観的であるという考え方が一般的です。
自社のキャッシュフロー状態を正確に把握し、経営効率を高め、財務を安定化させ、企業価値を向上させることがキャッシュフロー経営のポイントです。


考察 3 キャッシュフロー経営による経営改善

―資金効率を高め、財務体質を強化―

まず、本業の利益を拡大するために、現場の原価低減に努めることが重要です。そして、公共工事の現場で必要な資金は、前渡金だけでなく中間前払い金も活用できます。
工事完了後は、売上代金を早急に現金化することが優先されます。現場の工事原価低減だけでなく、全社を挙げ、売上代金の回収に取り組むことが課題となります。
 仕入債務は、入金時期とバランスの取れた支払時期を調整し、決算時期と期首の手元資金を確保することが次の資金手当てにつながります。
流通、小売業では棚卸資産の圧縮が重要ですが、建設業でも、施工スピードを上げ完成時期を早めることで、期末の棚卸資産を圧縮し、資金効率を高めることができます。
また、余剰資産を圧縮することもポイントになります。不良不要な固定資産は売却し、手元流動性を高めると同時に、当期純利益の確保や、適切なタスクコントロールを実施することも不可欠です。
このような全社的な経営改善が進めば、過剰な有利子負債を返済し、財務状況を改善することもできます。経営改善によって生み出した資金は、新たな成長事業に戦略的に投資することができます。


考察 4 建設業経営をサポートするツール

経営改善を進めるソリューションツールも必要です。例えば、建設業経営の未来をシミュレーションする「建設経営レポート」、建設経営をリアルタイムに監視する「建設CAPS」、工事原価をどこでも把握できる「クッション・ゼロ」などがあります。

【建設業経営レポート】
経営者・金融機関・発注者の視点からの経営分析ツール。企業別の経営概況、収益動向、主要財務指標の分析、金融機関の格付け判定などを通じて、将来の売上高目標、経常利益目標を企業別にシミュレーションする。

【建設CAPS】
現場をリアルタイムにコントロールすることができるツール。現場の進捗を常に監視し、利益の損失を未然に防ぐ。現場や管理部門の状況を一元管理する建設業経営の基幹システム。

【SkgDB】
危険予知、積極経営のために建設市場を客観的に把握するデータベース。自社の経営状況の客観的評価、金融機関との折衝、取引企業の選定、取引先の与信管理など、国内の主要建設企業延べ25万社180万決算期、最長10年間の企業情報を網羅したデータベース。

【クッション・ゼロ】
原価低減の実現を目指しコストを透明化する手法が「クッション・ゼロ」。実際の施工現場の工程計画、実行予算を編成し、現場日報の作成を支援するツール。

競争優位性維持し新分野へ メッセージはシンプルでわかりやすく 未来を味方にする経営を

ゼミナール
後半は、若手経営者の会のメンバーの質疑に高田氏が答えるゼミナール方式で進めた。新分野進出の可能性など喫緊の課題について語り合ってもらった。


新分野進出

Q.本業の建設業だけで生きていくことが厳しい時代だ。新分野に進出する場合のリスクは。建設周りで探すことが得策か

A.地方の建設企業は、1社でさまざまな職種に対応するフルターンキー型のところが多い。林業や農業に進出しようと思えば、山や土地を地元で調達できるところも少なくない。昔から兼業の建設企業もある。
それに比べ、得意分野でのすみ分けが進んでいる都市部の建設企業は、今の競争優位を前提に求めることになるだろう。自社が積み上げてきた実績の隣接に新しいお客さま、新しい切り口、新しいビジネスを探すことが正しい選択だろう。
今の商品や製品、技術を新しいお客さまに、また、今のお客さまに新しい商品や製品、技術を提供することと同時に、ほかの企業とのアライアンス(連携)も考えてみてはどうだろう。思いがけず展望が開ける可能性もある。
一人で考えるのではなく、複数人で考えるといい。そうするうちに、お客さまとお客さまが、お客さまと企業が、いずれは企業と企業がつながる。そして、つながったところからアイデアが生まれ、事業が立ち上がる。

Q.踏み切るには、経営者として決断が必要だ。

A.地場産業ならではフットワークの良さを活かしたい。都市のインフラリサイクル分野などは、まだまだ研究の余地がある。ディティール、ニッチな分野でオンリーワン企業を目指すことも生き残り策だ。
まずは、今の競争優位を維持した上で、新しい分野を狙ってみる。少しずつ立ち位置をシフトさせれば、大きなリスクは回避できるはず。


経審の改正

Q.この先、経審の改正はあるか。低入札をあおるような一般競争の問題点も多いが。

A.経審については昨年、前原誠司国土交通大臣が改正を示唆するような発言をしていた。地元で長年、真面目に仕事をしている企業が報われるような仕組みを再度、検討する必要があるだろう。
確かに、信用や実績を評価するような仕組みを求める声は多い。何を、どのように評価するかも含め、もう一度考えてみる機会があってもいいだろう。


発信力

Q.「訴えが弱い」「伝え方が下手」という意見もある。

A.大事なのは、シンプルなメッセージをわかりやすく発信することだろう。出したメッセージに共感してもらえないと理解されない。
都市部の建設企業のメッセージが「聞こえてこない」「埋没している」という声をよく耳にする。メッセージは誰が何を言ったかということより、どのように受け止められたかということの方が重要だ。伝え方、発信のし方については工夫したい。
都市部の建設企業は、事業領域を生かしたアライアンス、ビジネスチャンスはあるだろうが、顔が見えにくいだけに、余計に分かりやすいメッセージがほしい。


公共工事

Q.藤沢市ではくじ引き落札が多発している。新規事業でも資格さえあれば参加出来る。老舗企業としては納得がいかないこともある。何らかの差別化が必要では。

A.日本の社会インフラの評価は高い。発注者は、そのような質の高いサービスを提供しているということを市民にアピールすべきだと思う。
私は、公共工事の発注者と受注者の間に市場原理は成立しないと考えている。発注者と受注者の関係は、いわばグループ内カンパニーのようなものである。公費を使い、質の高い公共財を納税者に提供するというステージは同じである。その意味では、あくまで双務的な関係でないとまずい。当然、そこには公正性や競争性が確保されているということが前提だ。


建設団体の役割

Q.地域の建設団体の役割は。

A.事実と実績に基づいた客観性を担保するために、地域の建設企業を対象としたモニタリング業務を引き受けたらどうだろう。公益法人である地元の建設団体が独自の基準で建設企業を査定し、「地域版経審」のようなものを発表してもおもしろい。


人材の確保

Q.人材の確保や育成、教育が難しい時代になっている。人は、必要とされている感じた時に、初めてやりがいを感じるものだと信じているが。

A.金融経済が発展てきただけに、実体経済の柱であるものづくり感が希薄になっていると思う。確かに、職業指導など、キャリア形成に向けた教育も不足している。
これでは、建設業のイメージはいつになっても上がらない。ものづくりの根幹を支えるためにも、国策として取り組むことが望ましいと考える。


いずれにしても、企業経営のミッションは「未来の職業を担保すること」だ。競争を勝ち抜くためには、アライアンスや団体の力を活用して組織力を強化する必要がある。そして、今そこにある「リスク」や「不確実性」に対応するため、さまざまなツールを使いながら、現在(いま)をしのぎ、「未来を味方にする経営」に努めてほしい。


神奈川県若手経営者の会「経営者塾」出席者

大川原建設株式会社取締役 大川原 勝氏
岡村建興株式会社代表取締役社長 岡村 清孝氏
大栄建設株式会社代表取締役 福島 圭一氏
株式会社入内島土建取締役 入内嶋 智教氏
大旭建業株式会社代表取締役社長 村上 進氏
株式会社村上組代表取締役 村上 雅彦氏
株式会社吉田工務店代表取締役 吉田 和夫氏
株式会社桜井工務店常務取締役 桜井 富士一氏
河崎組建設業株式会社代表取締役社長 河崎 茂氏

日本マルチメディア・エクイップメント株式会社 代表取締役 高田 守康氏


高田 守康 氏

日本マルチメディア・エクイップメント株式会社
代表取締役 1955年東京生まれ。79年慶應義塾大学工学部を卒業後、 NECで建設産業向けシステムインテグレーション業務に従事。96年に東京都千代田区で同社を創業した。現在は主要建設企業25万社びデータベース「SkgDB」などを構築し、これに基づく「経営分析レポート」を建設企業に提供。若手経営者向けのビジネスセミナーを全国で開催している。また、経審データ分析の第一人者として、2008年の経審改正では、全国各地の説明会で講師を務めている。 著書に『建設業 残された選択肢』(同友館、共著)、『経審対策ガイドブック』(建通新聞社)などがある。