建通新聞掲載 地域の建設企業が生き残る経営を考えよう。-新春経営者塾-
地域の建設企業が生き残る経営を考えよう。
地域建設企業の未来は――。昨年の政権交代以降、新しい建設行政の方向性はなかなか見えてこない。確かなことは、2010年度の公共事業予算が、前年度と比べて大幅にマイナスすることだけのようだ。このようの中、地域の建設企業が生き残るポイントはどのようなところにあるのだとう。年の初めにちなみ、「経営者塾」と題し、全国25万社の財務データを分析する日本マルチメディア・イクイップメントの高田守康氏に、神奈川県若手経営者の会のメンバーと、建設業経営の方向性について話し合ってもらった。
考察 1 2008年の経審改正のポイントは?
―大企業は「利益と技術力」を評価、中小企業は「信頼と実績」を重視―
改正の目的の一つは、公共工事の企業評価における「物差し」の確立です。そしてもう一つは、生産性の向上や経営の効率化に向けた企業の努力を評価・後押しすることです。
新旧経審の総合評定値を比べると、08年末時点での完成工事高別P評点は、完成工事高が10億円以上の企業は上がり、逆に、10億円未満の企業は下がるという傾向がはっきりと出てきます。これが、今回の経審改正の特徴を端的に表しています。
具体的に言うと、一つは完成工事高、技術者数、利益・自己資本額など、企業規模による格差が拡大したということです。そしてもう一つは、X2評点やW評点で見られるように、同規模企業での順位の変動幅が広がったということです。
すなわち、自己資本額、利益絶対額、企業規模が大きく、営業年数が長い企業ほど、比較的高い点数を取ることができる指標になったということが言えます。
新経審のX2評点は、利益を絶対額で評価する指標になりました。利益は平均利益額(フロー)と自己資本額(ストック)の両面から評価します。
平均利益額は、営業利益に減価償却費を差し戻して算出します。企業の設備投資は利益とみなすという考え方です。同種同規模の工事であれば、機械をレンタルするのではなく、設備投資し償却した方が評価が上がるという仕組みです。
W評点の中で大きく変わったのが評点幅です。旧経審がゼロ点から30点までだったのに対して、新経審はマイナス60点からプラス45点までと大幅に拡大しました。
企業の社会的責任が問われる中、長年、地域貢献してきた企業が、やっと一定の評価を得られる指標のようになりました。労働条件や職場環境を整えているのが当たり前の企業を正しく評価しようという思想が根底にあり、地域建設企業にとっては歓迎です。
Y評点のうち特徴的なのは、総資本売上総利益率を評価した点です。売上総利益とは粗利のことであり、現場で利益を出す力、すなわち現場力で差をつけるという意思表示です。現場で前向きに設備投資をして、減価償却しながら粗利を確保する企業が評価されることになりました。
Y評点の中では純支払利息比率が効きます。これにはキャッシュフロー経営を指向しようという考え方が鮮明に出ています。営業キャッシュフローや利益剰余金を絶対額で取り入れたのも同じ狙いでしょう。
考察 2 キャッシュフロー経営の必要性
―売上高偏重からの脱却―
高度経済成長の時代は、売上高の拡大が利益につながり、その利益の中から新たな投資にまわす資金を確保していました。バブル崩壊後は、売上高の減少が利益の減少となり、設備投資にまわす資金も底を突くようになりました。保有資産の価値は下がり、金融機関の貸し渋りを招きました。
そんな中、企業価値を高める手法としてキャッシュフロー経営の重要性が問われ始めました。その理由の一つは「企業が生き残る」ためです。売上や利益が拡大した時代は、本業で損失を出しても土地や株式などの含み益を担保に融資を受けることができました。
しかし、売上や利益の拡大が難しくなった現在のような様相で、安易な借り入れに頼る経営は危険であり、キャッシュフローを見据えた経営の重要性が増しました。
もう一つは「企業経営を強化する」ためです。キャッシュフローは、企業価値や事業価値を計る尺度として、投資の意思決定をする判断指針として客観的であるという考え方が一般的です。
自社のキャッシュフロー状態を正確に把握し、経営効率を高め、財務を安定化させ、企業価値を向上させることがキャッシュフロー経営のポイントです。
考察 3 キャッシュフロー経営による経営改善
―資金効率を高め、財務体質を強化―
まず、本業の利益を拡大するために、現場の原価低減に努めることが重要です。そして、公共工事の現場で必要な資金は、前渡金だけでなく中間前払い金も活用できます。
工事完了後は、売上代金を早急に現金化することが優先されます。現場の工事原価低減だけでなく、全社を挙げ、売上代金の回収に取り組むことが課題となります。
仕入債務は、入金時期とバランスの取れた支払時期を調整し、決算時期と期首の手元資金を確保することが次の資金手当てにつながります。
流通、小売業では棚卸資産の圧縮が重要ですが、建設業でも、施工スピードを上げ完成時期を早めることで、期末の棚卸資産を圧縮し、資金効率を高めることができます。
また、余剰資産を圧縮することもポイントになります。不良不要な固定資産は売却し、手元流動性を高めると同時に、当期純利益の確保や、適切なタスクコントロールを実施することも不可欠です。
このような全社的な経営改善が進めば、過剰な有利子負債を返済し、財務状況を改善することもできます。経営改善によって生み出した資金は、新たな成長事業に戦略的に投資することができます。
考察 4 建設業経営をサポートするツール
経営改善を進めるソリューションツールも必要です。例えば、建設業経営の未来をシミュレーションする「建設経営レポート」、建設経営をリアルタイムに監視する「建設CAPS」、工事原価をどこでも把握できる「クッション・ゼロ」などがあります。
【建設業経営レポート】
経営者・金融機関・発注者の視点からの経営分析ツール。企業別の経営概況、収益動向、主要財務指標の分析、金融機関の格付け判定などを通じて、将来の売上高目標、経常利益目標を企業別にシミュレーションする。
【建設CAPS】
現場をリアルタイムにコントロールすることができるツール。現場の進捗を常に監視し、利益の損失を未然に防ぐ。現場や管理部門の状況を一元管理する建設業経営の基幹システム。
【SkgDB】
危険予知、積極経営のために建設市場を客観的に把握するデータベース。自社の経営状況の客観的評価、金融機関との折衝、取引企業の選定、取引先の与信管理など、国内の主要建設企業延べ25万社180万決算期、最長10年間の企業情報を網羅したデータベース。
【クッション・ゼロ】
原価低減の実現を目指しコストを透明化する手法が「クッション・ゼロ」。実際の施工現場の工程計画、実行予算を編成し、現場日報の作成を支援するツール。